2022.03.07
ENEOSの現場スタッフから車のメンテンスについて学ぶ企画「プロから学ぶ車のメンテナンス術」。今回のテーマはタイヤの残溝です。ENEOS 西新井大師前SSの佐藤佑哉さんに、タイヤの残溝チェックについて聞いてきました。タイヤの残溝が減っている状態の危険性や残溝チェックのやり方、チェック時の注意点をご紹介しています。
2022.03.07
タイヤに設けられている溝のすり減りを放置すると走行中に危険が伴います。まずは、タイヤの残溝が浅い状態が危険である理由や安全走行に必要な条件を解説します。
タイヤの残溝が浅い状態では、路面の水がうまく排水されずにスリップしやすくなります。そもそもタイヤの溝の役割は、走行時に路面の水を適切に排水することです。路面の水が排水できないとハイドロプレーニング現象(以下で詳しく説明)が発生し、ハンドルやブレーキが効かない状態に陥ります。
また、タイヤの溝がすり減っている状態は、タイヤ表面のゴムがすり減っている状態でもあります。この状態では、タイヤが路面を掴むグリップ力が弱まり、路面に水がない状況でもスリップを招きやすくなります。
ハイドロプレーニング現象とは、タイヤと路面の間に水の層ができ、車が浮いてしまうことにより、ハンドルやブレーキが効かなくなる状態です。発生する要因は複数ありますが、原理としてはタイヤの排水機能が働かず、車体が水膜の上に乗ってしまうことです。例えば、高速道路などで走行スピードが上がる、残溝が浅い、タイヤの空気圧が不足している、といったケースで排水機能が働きづらくなります。
▼タイヤの残溝とハイドロプレーニング現象の関係図
車で安全に走行するためには、タイヤの残溝の深さが4mm以上必要です。4mmという基準は、各タイヤメーカーから発表*されています。4mmを下回ると制動距離が急激に長くなるため、一般的に4mmがタイヤ交換を検討する一つの基準となっています。
*参考:株式会社ブリヂストン|タイヤの寿命はどれぐらい?知っておきたい交換時期と見分け方 – タイヤの点検・整備 – タイヤを知る(乗用車用)
*参考:横浜ゴム株式会社|タイヤの点検・整備_摩耗管理
なお、残溝が1.6mmを下回った場合は、すぐにタイヤ交換が必要です。残溝が減少するにつれて制動距離が長くなることに加えて、1.6mmを下回ったタイヤで走行すると道路交通法違反にあたるためです。以下の表では、タイヤの残溝の深さとタイヤ交換のレベルを表しています。
残溝 | 対応レベル |
---|---|
4mm以上 | まだ交換不要 |
4mm~1.6mm | 早めに交換が必要 |
1.6mm未満 | すぐに交換が必要 |
タイヤの残溝が1.6mmになると、一般的なタイヤではスリップサインが露出します。もしチェック時にスリップサインが露出している場合はすぐにタイヤ交換の手配をしてください。
▼スリップサインが露出したタイヤ
タイヤのスリップサインはサイドにある三角マークのライン上に設けられています。タイヤの残溝の深さが1.6mmに達すると、溝をふさぐような突起が露出する仕組みです。
▼スリップサインの位置
スリップサインが露出しているタイヤ | スリップサインが露出していない新品タイヤ |
---|---|
スリップサインが完全に露出したタイミングでは、制動距離が長くなる、ハイドロプレーニング現象が起こる、といったリスクが高まるため、一刻も早くタイヤ交換しなければなりません。さらに、スリップサインが露出しているタイヤが一つでもあれば、その車両は整備不良と見なされます。道路交通法62条*では、整備不良のまま走行することを禁じており、スリップサインが出た状態での走行は法律違反となります。
「スリップサインが完全に露出=交換のタイミング」ではないことに留意が必要です。安全のためにスリップサインが完全に露出する前にタイヤを交換しましょう。
*出典:e-GOV 法令検索|道路交通法|第62条
タイヤの残溝が減少することによる危険性や安全走行に必要な残溝の深さについてご紹介しました。ここからは、実際に残溝の深さをチェックするタイミングや手順を解説します。
タイヤの残溝をチェックするタイミングは、空気圧点検に合わせておくのがおすすめです。空気圧点検ではタイヤの状態も確認するのでそのついでに残溝をチェックできる、空気圧の点検は基本的に1カ月に1回が推奨されていて残溝チェックのタイミングとしても妥当、といった点がおすすめする理由です。残溝や空気圧を自分でチェックすることに自信がない場合は、SS(サービスステーション)で知識・技術を持つスタッフに実施してもらうこともできます。
ENEOSジェネレーションズのSSでタイヤの残溝をチェックする場合は、入店後にスタッフに空気圧点検と残溝チェックを依頼してください。スタッフがタイヤの残溝や空気圧、表面の状態を確認し、結果を報告します。もし残溝が4mmを切っている場合は早めの交換をおすすめしており、タイヤの在庫があればその場で交換することも可能です。
▼残溝をチェックするときの入店から退店までの流れ
所要時間は、残溝と空気圧の両方をチェックして10分程度で、タイヤ交換まで実施する場合は合計40~50分程度かかります。10分程度でタイヤの状況を把握できるため、ぜひ給油のついでに気軽にスタッフまでご相談ください。
タイヤの残溝を自分でチェックするときは、次で挙げる3つの手順で実施できます。特別な技術や用具は不要で、数分程度で終わるので、車に詳しくない方でも簡単にチェックできます。
タイヤの残溝をチェックするときは、まず安全な場所に停車します。駐車場の駐車スペース内で点検する場合でも横や前後に停めようとする車に注意が必要です。できるだけ明るい日中に見通しが良い場所に停車しましょう。
停車時にハンドルを切っておくと、駆動輪が車体からはみ出るのでタイヤの残溝をチェックしやすくなります。
安全な場所に停車できたら、実際に残溝の深さを測定します。専門の店舗ではデプスゲージと呼ばれる専用器具を使って測定しますが、自分で点検する場合は5円硬貨で代用できます。5円硬貨を使った残溝の測り方については、「【コラム】残溝チェックにおける5円硬貨の使い方」で詳しくご紹介します。
▼デプスゲージを使った測定の様子
▼デプスゲージ(左:アナログ、右:デジタル)
▼5円硬貨で代用
残溝の深さを測るときは、車種や走行の仕方によってタイヤの中央とサイドで摩耗の加減が異なることがあるため溝のラインを1本ずつ見ていきます。例えば、以下の写真のタイヤでは溝が4本あるので、奥から手前に向かって1本ずつ測定します。
▼残溝の測る箇所
タイヤの残溝を4本チェックし、全て4mm以上であれば引き続き問題なく走行できます。4mmを下回っている箇所があった場合は、なるべく早くタイヤの交換が必要です。SSやタイヤ専門店などのプロに相談してみてください。
5円硬貨を使えば手軽に残溝の目安を把握できるので、測定器がない時や自分でチェックする時などにおすすめです。
タイヤの残溝チェックで5円硬貨を代用するときは、「五円」の文字がどれくらい見えるのかを判断基準とします。5円硬貨の表側に「五円」の文字が記載されており、タイヤの溝に5円硬貨を差し込んでその「五円」の見え方を確認します。
5円硬貨を溝に対して水平に差し込んだとき、「五円」の三画目の書き出しが下から約4mm、四画目の書き出しが下から約1.6mmを示します。
使い古したタイヤと新品のタイヤを実際に5円硬貨で測定すると以下のようになりました。使い古したタイヤは「五円」が全部見えるため、すぐに交換が必要です。一方で、新品のタイヤは「五円」がほぼ見えないため、まだ交換の検討は不要でしょう。
使い古したタイヤ | 新品のタイヤ |
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タイヤの残溝をチェックするときには、注意しておきたいポイントが2点あります。最後に注意点と対処法を解説します。
タイヤの残溝をチェックするときは、タイヤやホイールが高温になっている場合があるのでやけどをしないよう注意が必要です。特に炎天下での駐車や高速走行の後は温度が高くなりがちです。やけどを回避するためにも、温度が低くなってから、または専門のスタッフがいる店舗で実施してください。
タイヤの残溝チェックでは、自分では見たつもりでもチェックが漏れてしまっているケースがあります。プロがタイヤをチェックするときには、チェック漏れや二重チェックを回避するために、自分のルールとして運転席横のタイヤから時計回りにチェックする、といったように起点と動き方を固定する方法を取っている人もいます。これはタイヤ回り全般のチェックで使えるテクニックなので、空気圧点検を自分で実施するときなどでぜひ取り入れてみてください。
タイヤの残溝は路面の水を適切に排水する役割を持ち、安全に走行するために不可欠な要素です。すり減ったままで放置しているとスリップのリスクが高まり非常に危険なので、空気圧点検と併せて定期的にチェックしましょう。自分でチェックするのが不安な方はSSのスタッフに気軽にご相談ください。
【西新井大師前SS 佐藤佑哉さん】
※ENEOSジェネレーションズのSSで働くスタッフの仕事内容はこちらでも詳しく紹介→「カーライフビジネスを知る」